リハーモナイズ入門 — パッシング・ディミニッシュで作るクロマチックなコード進行
著者 Masashi Y.
「コピーしたジャズ・ギターのコンピングに、原曲譜には無いコードがちらほら混ざっている」 「定番進行は弾けるようになったけど、コンピングにもう少し色を足したい」
そんなときに手がかりになるのがリハーモナイズ(略してリハモ)です。原曲のメロディや大枠を保ちつつ、下支えするコードを差し替えたり足したりして、進行に動きと色彩を与える技法——ジャズ・ポップス・映画音楽を問わず、コンピングやアレンジの要になる考え方です。
本記事ではギタリスト向けに、これまでの記事で扱ってきたリハモ技法を整理した上で、新しい一手として「パッシング・ディミニッシュ(経過減和音)」を導入します。パッシング・ディミニッシュはジャズ・ギタリストのコンピングで頻出する定番技法で、定番進行にクロマチックな経過音を1つ足すだけで雰囲気を変えられる、非常にコスパのよい一手です。
リハーモナイズとは?
リハーモナイズとは、既存のコード進行のコードを入れ替えたり、間に新しいコードを挿入したりして、メロディに対する和声を彩り直すことです。
大きく分けて2つのアプローチがあります:
- 差し替え(Substitution): 元のコードを別のコードに置き換える(例:V7 を裏コードの ♭II7 に、I を VIm に置き換える)
- 挿入(Insertion): 既存のコードの間に新しいコードを足す(例:II の手前に V7/II、I と IIm の間にパッシング・ディミニッシュ)
メロディは変わらないため、聴き手の「この曲だ」という認識は保ちながら、ハーモニーの厚みと方向感だけが豊かになるのがリハモの魅力です。
既出記事のリハモ技法マップ
本サイトで既に扱ってきた主なリハモ技法を、リハモの視点から短く整理しておきます。後半でパッシング・ディミニッシュと組み合わせるときのリファレンスにしてください。
セカンダリードミナント(V7/X)
任意のダイアトニックコードを「一時的な I」と見立て、その直前に V7 を挿入する技法。
- 元: Dm7 → G7 → Cmaj7
- リハモ後: A7 → Dm7 → G7 → Cmaj7(A7 = V7/II が Dm7 を強く呼び寄せる)
Dm7
G7
Cmaj7
A7
Dm7
G7
Cmaj7
詳しくは セカンダリードミナント完全ガイド を参照。
リレイテッドIIm7(II-V 分解)
単独で立っている V7 の直前に IIm7 を挿入し、「II-V ペア」として書き換える技法。セカンダリードミナントが「V7 を追加する」なら、こちらは「IIm7 を追加する」——対になる発想です。
- 元: G7 → Cmaj7
- リハモ後: Dm7 → G7 → Cmaj7(G7 の手前にその4度下の IIm7=Dm7 を追加)
G7
Cmaj7
Dm7
G7
Cmaj7
詳しくは リレイテッドIIm7 完全ガイド を参照。
裏コード(トライトーン代理)
V7 を「完全4度離れた別の V7」で置き換える技法。ベースラインがクロマチックに下降する。
- 元: G7 → Cmaj7
- リハモ後: D♭7 → Cmaj7(G7 と D♭7 はトライトーン B/F を共有)
G7
Cmaj7
D♭7
Cmaj7
詳しくは 裏コード(トライトーン代理)ガイド を参照。
偽終止(Deceptive Cadence)
V7 の解決先を「期待された I」から近縁のコード(トニック代理)にずらす技法。
- 元: G7 → Cmaj7
- リハモ後: G7 → Am7(V → VIm、「解決したようで、していない」宙吊り感)
G7
Cmaj7
G7
Am7
詳しくはセカンダリードミナント記事の 偽終止セクション を参照。
オンコード(分数コード)によるベースライン作り
分子コードを保ちつつ、指定ベース音を変えて滑らかなベースラインを作る技法。
- 元: C → Am → F → G
- リハモ後: C → G/B → Am → F → C/E → Dm7 → G(ベースが C → B → A → F → E → D → G と滑らかに動く)
C
Am
F
G
C
G/B
Am
F
C/E
Dm7
G
詳しくは オンコード完全ガイド を参照。
パッシング・ディミニッシュ — 新しい一手
ここからが本記事のメイントピックです。パッシング・ディミニッシュ(経過減和音、Passing Diminished)は、隣接するダイアトニックコードの間に、そのどちらでもないディミニッシュコードを挿入する技法です。
ディミニッシュ7thコードとは
ディミニッシュ7thコード(dim7)は、ルートから短3度ずつ4音を積み重ねたコード。すべての音程が短3度(=均等)なので、対称的で方向性を持たない不安定な響きが特徴です。
- 例: C♯dim7 = C♯ - E - G - B♭
この4音はすべて半音動けば別のコードのコードトーンに変わるという性質があり、これがパッシング・ディミニッシュの機能を生みます。
C♯dim7
パッシング・ディミニッシュの基本パターン
典型的な使い方は次の通りです。ベースがクロマチックに1フレット動く場所に挿入します。
上行系(半音上行のベース)
| 元の進行 | リハモ後 | ベースの動き |
|---|---|---|
| C → Dm | C → C♯dim7 → Dm | C → C♯ → D |
| F → G | F → F♯dim7 → G | F → F♯ → G |
| G → Am | G → G♯dim7 → Am | G → G♯ → A |
| Dm → Em | Dm → D♯dim7 → Em | D → D♯ → E |
C
C♯dim7
Dm
下行系(半音下行のベース)
| 元の進行 | リハモ後 | ベースの動き |
|---|---|---|
| Em → Dm | Em → E♭dim7 → Dm | E → E♭ → D |
| Am → G | Am → A♭dim7 → G | A → A♭ → G |
Em
E♭dim7
Dm
どのパターンも、ベース音が半音で滑らかに繋がるのが特徴です。
なぜ機能するのか — 上行系と下行系で仕組みが違う
ここで重要な区別を押さえてください。上行系と下行系のパッシング・ディミニッシュは、機能の成り立ちが異なります。
上行系:セカンダリードミナント V7(♭9) の根音省略形
上行系のパッシング・ディミニッシュは、ターゲットのセカンダリードミナント V7(♭9) の根音を省略した形と解釈できます。
- C♯dim7 の構成音: C♯ - E - G - B♭
- A7(♭9) の構成音: A - C♯ - E - G - B♭(R - 3 - 5 - ♭7 - ♭9)
A(ルート)を省くと A7(♭9) の上 4 声 = C♯dim7 になります。つまり C♯dim7 は「Dm7 に向かう V7/II (♭9)」として機能し、Dm7 への強いドミナント推進力を持つわけです。他の上行系(F♯dim7 → G は D7(♭9) 相当、G♯dim7 → Am7 は E7(♭9) 相当、など)もすべて同じ原理です。
下行系:ドミナントではなく「クロマチックな経過和音」
一方、下行系のパッシング・ディミニッシュは V7(♭9) の代理ではありません。
- E♭dim7 → Dm7 の場合:E♭dim7(E♭ - G♭ - A - C)は、Dm7 に向かう V7 である A7(♭9)(A - C♯ - E - G - B♭)と音を共有しません。
- A♭dim7 → G の場合も同様で、G に向かう V7 である D7(♭9)(D - F♯ - A - C - E♭)とは別の音群です。
下行系は「ドミナント機能による引き寄せ」ではなく、各声部が半音で並行的に下降する経過和音——直前のコード(E♭dim7 の例なら Em7)の響きから、全体を半音ずつずらして次のコードへスライドさせる「クロマチック・アプローチ」として解釈するのが正確です。
共通点:全声部が半音・全音で滑らかに動く
機能背景は違っても、聴こえる「滑らかさ」はどちらも同じ。dim7 は全音程が短3度で積まれた対称コードなので、どの音も半音または全音で隣接コードのトーンへ移れます。
実用的なボイシング(ギターの Drop2 など)で上行系 C♯dim7 → Dm7 の 4 声の動きを見ると:
- C♯ → D(半音上行、R へ)
- E → F(半音上行、♭3 へ)
- G → A(全音上行、5 へ)
- B♭ → C(全音上行、♭7 へ — ここで 7th が生まれる)
2 声が半音、2 声が全音で動き、完全な Dm7(D-F-A-C:ルート・♭3・5・♭7 すべて揃った形)に着地します。V7 → I の解決と同種の「着地感」が、ベースの半音上行と相まって得られます。
パッシング・ディミニッシュ vs セカンダリードミナント(上行系)
上行系パッシング・ディミニッシュが V7(♭9) 等価なら、セカンダリードミナントと何が違うのでしょうか? 違いはルートの有無による推進力の強さにあります。
| 技法 | 例(Dm7 への前置) | 推進力 | 使いどころ |
|---|---|---|---|
| セカンダリードミナント | A7(→ Dm7) | 強い(ルート A が「V → I」の骨格を打ち出す) | 進行のハイライトを作りたいとき |
| パッシング・ディミニッシュ | C♯dim7(→ Dm7) | 控えめ(ルートがなく、経過的な響き) | 自然に通り過ぎたいとき |
セカンダリードミナントが「強い引き寄せ」なら、パッシング・ディミニッシュは「さりげない引き寄せ」。定番進行を大きく変えず、「なんとなくジャジーな香り」を足したいときの第一候補です。
組み合わせて使う — 定番進行のリハモ例
他のリハモ技法と組み合わせると、1つの進行が段階的に表情を変えていきます。C メジャーキーの定番循環 Cmaj7 → Am7 → Dm7 → G7 → Cmaj7 を段階的にリハモしてみましょう。
Step 0: オリジナル
Cmaj7 → Am7 → Dm7 → G7 → Cmaj7
標準的な I-VI-II-V-I 循環。安定しているが、動きは控えめ。
Cmaj7
Am7
Dm7
G7
Cmaj7
Step 1: セカンダリードミナント(VIm を V7/II に差し替え)
Cmaj7 → A7 → Dm7 → G7 → Cmaj7
Am7 を A7 に置き換えて Dm7 への強い引き寄せを作る。
Cmaj7
A7
Dm7
G7
Cmaj7
Step 2: パッシング・ディミニッシュへ差し替え(さらに軽やかに)
Cmaj7 → C♯dim7 → Dm7 → G7 → Cmaj7
A7 を C♯dim7 に替えて、ベースを C → C♯ → D と滑らかに。
Cmaj7
C♯dim7
Dm7
G7
Cmaj7
Step 3: 裏コードで締めを変える
Cmaj7 → C♯dim7 → Dm7 → D♭7 → Cmaj7
G7 を D♭7 に置き換え、全体のベースが C → C♯ → D → D♭ → C と半音で上下する。
Cmaj7
C♯dim7
Dm7
D♭7
Cmaj7
Step 4: 偽終止で「続く感」を演出
Cmaj7 → C♯dim7 → Dm7 → D♭7 → Am7
最後の Cmaj7 を Am7(トニック代理)に差し替え、曲がまだ続いていく感を残す。
Cmaj7
C♯dim7
Dm7
D♭7
Am7
補足: この形は「裏コード D♭7 の解決先を、さらに偽終止で VIm にずらす」という二重のリハモです。ベースは C♯ → D → D♭ → A と最後で跳躍し、王道の偽終止(G7 → Am7)と比べると調性が曖昧になり、モダンで浮遊感のある響きになります。伝統的な偽終止の落ち着きが欲しければ、Step 3 の D♭7 を G7 に戻した「Cmaj7 → C♯dim7 → Dm7 → G7 → Am7」がおすすめです。
Step 0 と Step 4 を聴き比べると、メロディを支える骨格は同じなのに、動きと色彩が別物になっているのが感じられるはずです。
実践のコツ
- 最初は1手ずつ: いきなり複数の技法を混ぜず、「まず V7/X を 1 つ足す」「次にパッシング・ディミニッシュを 1 つ挿入する」と段階的に積み上げると、何が効いているかが耳で判別できる
- メロディとの衝突チェック: リハモ後のコードトーンがメロディと半音でぶつからないかを必ず確認。特にパッシング・ディミニッシュは不協和音なので、経過的に一瞬通る形が基本(長く留まると浮く)
- ベースラインで選ぶ: 複数のリハモ候補があるとき、ベースラインが最も滑らかに繋がる選択肢を選ぶとまず失敗しない。パッシング・ディミニッシュは「ベースを半音で埋める」という目的があるので、この基準と噛み合う
notaveで、リハモ候補をすぐに出す
notave は、コード名を入力するとボイシング候補を瞬時に一覧表示します。リハモで登場する C♯dim7・A7(♭9)・D♭7 のような少し特殊なコードも、同じ感覚で指板上のフォームを引き出せます。
- ディミニッシュ・オルタード系コードも即座にボイシング表示
- 前後のコードを入力すると、ボイスリーディングが自然な候補を推奨
- 気に入ったボイシングは TAB譜・五線譜として記譜、再生で音も確認
リハモのアイデア出しから指板上のフォーム確認までワンストップで進められます。
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